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【映画紹介】『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ原作)

映画の紹介と感想

※この記事は、この作品をこれから見る方へ向けた紹介&ちょこっと感想です。
予告や公式サイトでわかる程度の展開には触れていますが、映画の結末や重大な展開には触れていない、ネタバレなし感想になります。
※物語の展開のネタバレはないですが、猫についての注意喚起があります。

どんな作品なのかを知りたい方は、ぜひご覧になってください。
この記事で、この映画に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

映画『遠い山なみの光』の基本情報|公開日・キャスト

『遠い山なみの光』(2025年9月5日公開/日本・イギリス・ポーランド合作)
原作:カズオ・イシグロ著『遠い山なみの光 A Pale View of Hills』(1982年 王立文学協会賞受賞)
エグゼクティブ・プロデューサー:カズオ・イシグロ
監督・脚本・編集:石川慶
制作:U-NEXT(日)、Number 9 Films(英)、Lava Films(ポーランド)
キャスト:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和、カミラ・アイコ、ほか
配給:ギャガ GAGA

→映画『遠い山なみの光』の公式サイトはこちら

原作者カズオ・イシグロについての簡単な紹介

【略歴】
1954年、長崎生まれ。
1960年に両親と共にイギリスへ移住。
1982年、『遠い山なみの光』にて作家デビューし、王立文学協会賞を受賞。
1983年、イギリスに帰化。
1989年、『日の名残り』で英語圏で最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞し、イギリスを代表する作家となる。
2005年、『私を離さないで』出版。
2017年、「壮大な感情の力を持った小説を通し、世界と結びついているという、我々の幻想的感覚に隠された深淵を暴いた」との理由で、ノーベル文学賞を受賞。

【代表作】
『日の名残り』『私を離さないで』どちらも映画化され、日本でも高い評価を得ている。

【作風】
日本とイギリス、両方の文化にルーツを持ち、その独特の視点から「記憶」や「人間の内面」を描く。

映画『遠い山なみの光』のあらすじ(ネタバレなし)

1982年、イギリス。
日本人の母とイギリス人の父を持つニキ(カミラ・アイコ)は、大学を中退し、作家を目指そうと考えていた。
生家である実家が売却されると聞き、ニキは母・悦子(吉田羊)が一人で暮らす実家を訪れる。
母と言葉を交わし、母の日本時代の写真などを見つけたニキは、戦後の長崎からイギリスへ渡ってきた悦子の人生を物語にしたいと考える。

イギリスに来る前のことについては口を閉ざしてきた悦子だったが、ニキと会話を交わす中で、少しずつ長崎で過ごしていた頃のことを話し始める。
彼女が語ったのは、戦後の復興に沸く1952年の長崎での思い出。
若き日の悦子(広瀬すず)がふとしたきっかけで知り合った佐知子(二階堂ふみ)という女性と、その幼い娘・万里子と過ごした、ひと夏の話だった。

初めて聞く母の過去に引き込まれていくニキ。
しかし物語が進むにつれ、ニキは違和感に気づきはじめる……

※予告編はこちら。
映像で世界観を味わったあと、記事で詳しい紹介をどうぞ。

感想|時代と場所を超える“記憶”の物語

原作小説を読まずに映画を鑑賞した感想としては、“ヒューマンドラマの皮を被ったミステリー”という感じです。
公式サイトでは「ヒューマンミステリー」として紹介されています。

戦後まもない長崎から、かつての敵国であるイギリスへと渡ってきた日本人女性の半生(人生)が明らかになる、と聞けば、誰もが“なんらかの苦労話”を思い浮かべると思います。

長崎ということは、原爆の被害にあったのだろうか、とか。
復興途上の長崎での生活は大変だったのではないか、とか。
異国(イギリス)へ移住してきた当初は偏見にさらされて苦労したのではないか、とか。

そういう話、つまりヒューマンドラマが語られるのかと思ったら、そうじゃないんです。

悦子が語る、佐知子や万里子とのやりとり。
夫である二郎(松下洸平)や、義父であり恩師である緒方先生(三浦友和)とのやりとり。

そのどれもが、戦後という、戦前の価値観がひっくり返った混乱期のエピソードであるためか、のどかな光景や和やかな情景なのに、どことなく不安でヒリヒリしていて、何かが隠されているような印象を受けます。

ニキと同様に、映画の観客も違和感を覚えながら物語を追っていき、そして「ああ、そういうことか」と思うのです。
見終わった直後は「どういうこと?」と混乱しますが、エピソードを思い返していくと、「こういうことだったのかな」という、“真実”にたどり着けると思います。

その“何かが隠されているような印象”、つまり“謎”を追っていき、最後にそれが明らかになるので、この物語はミステリーなんだなと思うのです。

映画『遠い山なみの光』の見どころ|二つの時代を繋ぐ“記憶”の謎

この物語の最大の見どころは、悦子の過去に隠されている“謎”を解き明かすこと、だと思います。
しかし、それ以外にも見どころはたくさんあります。

1950年代という、戦後まもない長崎の情景

1952年の、原爆の被害から復興しようとしている長崎の情景。
そこで生きる人々の様子。
街は活気付いているけれど、原爆と戦争の被害はまだあちこちに見受けられる。
なによりも、人々の心の傷は深く、みな何かを抱えながら生きている。
生きることに必死な人々の、どこかヒリヒリとした感情と、そこに隠されている秘密の匂い。

この、戦後すぐの長崎の様子は、日本人はもちろん、他の国の人にも見てほしいです。
そういう意味でも、この作品が日本・イギリス・ポーランドの合作で、世界での公開を想定していてよかったと思います。

1980年代のイギリスでの、吉田羊の英語での演技

1982年の、穏やかなイギリスでの生活の様子。
その穏やかさの陰に隠れている不安。
なんらかの確執があると察することのできる、母娘のやりとり。
イギリスでの生活にも影を落としていたと思われる、母・悦子の閉ざされていた記憶とは。

1980年代の悦子を演じる吉田羊さんの、全編イギリス英語での演技は必見です。
私は英語がよくわからない日本人なので、まるでネイティブのように会話をしていることに驚嘆しました。
母国語ではない英語、しかもイギリス英語を使いながら、非常に繊細な演技をしている吉田羊さんを、ぜひ見てほしいです。

このイギリスパートでのカメラワークが、すごくイギリス映画っぽい、つまり日本映画っぽくないのも、とても良いんです。
日本の情景とイギリスの情景が全然違うことが一つの映画内で確認できるのも、この映画のみどころのひとつです。

日本とイギリス、二つの時代を繋ぐ“謎”の“真実”とは

30年の時を経て、この二つの時空が結びついたとき、“真実”が明らかになります。
それは、悦子の“真実”であり、ニキの“真実”であり、映画を見ている私たちひとりひとりの“真実”なのです。

その“真実”は、それぞれの解釈に委ねられていて、ひとつとして同じものはない。

“真実”は人の数だけあり、ひとつではないのだということを、実感させてくれる物語だと思います。

鑑賞注意! 猫好きにはおすすめできないかも

物語の中で猫が出てきたとき、この不穏な空気に包まれている物語では、なにかよくないことが起こるかもしれない、という予感を覚えました。

ただ猫が出てきただけなのにそう感じたというのは、この映画の脚本や演出がよくできているということだと思います。
物語の全編に渡って、緊張感をはらんでいる不穏さが漂っているのです。

猫が出てきた時点で「あ~~嫌な予感がする~~」と思うくらいには、空気は最初からひりついているし、さまざまな描写がされる中で、どんどん嫌な予感が膨らんでいきます。
その映像表現も、“謎”を解き明かす鍵だと思うので、ミステリー好きな人には見てほしいなと思います。
でも、その演出が秀逸だからこそ、「猫になにかよくないことが起こる」ことに耐えられない人には、おすすめできないです。

最近はSNSで映画の宣伝をする際に、「猫(犬)は無事です」という注意喚起のような文言が使われることがあります。
劇中で彼らに何かあると、ショックを受けてしまう人がいるからですね。
私は「フィクションだから」と割り切れますが、それでも「ああ~」とはなるので、ダメな人はとことんダメだと思います。

これを伝えることは、ある意味でネタバレになってしまうのですが、映画を見て気分が悪くなるかもしれない人への注意喚起は必要かなと思っています。
なので、あえてこのことについて言及しました。
それでも一見の価値ある映画だと思いますが、無理はしないようにしてくださいね。

映画『遠い山なみの光』まとめ|“記憶”と“真実”をめぐる物語

映画『遠い山なみの光』は、1950年代の戦後長崎と、1980年代のイギリスという二つの時代を背景に、母と娘、そして“記憶”と“真実”をめぐる物語を描き出している作品です。

一見穏やかな日常の中に潜む不安や違和感が積み重なり、やがて“謎”が浮かび上がってくる。
その解釈は観客ひとりひとりに委ねられていて、誰もが自分なりの“真実”にたどりつくことになるでしょう。
ヒューマンドラマとミステリーの両方を味わえる、静かで深い余韻を残す作品です。

また、1950年代の悦子を広瀬すずさんが、1980年代の悦子を吉田羊さんが演じているので、一人の人物を二人の俳優が演じるところも魅力的です。
『遠い山なみの光』、ぜひ映画館でご覧になってみてください。

 

原作小説『遠い山なみの光』の紹介

原作小説も合わせて読んでみると、作品の理解が増すかもしれません。
こちらを読んで、自分なりに見つけた“真実”について、考えてみようと思います。

 

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