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【映画紹介】サブスタンス

映画の紹介と感想

※この記事は、この作品をこれから見る方へ向けた紹介&ちょこっと感想です。
予告や公式サイトでわかる程度の展開には触れていますが、映画の結末や重大な展開には触れていない、ネタバレなし感想になります。

どんな作品なのかを知りたい方は、ぜひご覧になってください。
この記事で、この映画に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

基本情報

『サブスタンス』(2024年/日本公開2025年/イギリス)
監督・脚本:コラリー・ファルジャ
出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド、ほか

あらすじ

かつて一世を風靡したスター女優エリザベス(デミ・ムーア)は、50歳の誕生日直前に、長年出演していた朝のエアロビクス番組の降板をプロデューサーのハーヴェイ(デニス・クエイド)から告げられる。
その理由が年齢と、加齢にともなう容姿の衰えだと知ったエリザベスは、失意のどん底に落とされてしまう。

そんなとき、再生医療的なもので「より良い自分になれる」と広告している“サブスタンス”という製品の存在を知った彼女は、半信半疑ながらも、“サブスタンス”を使うことにする。

“サブスタンス”を使ったエリザベスは、強烈な苦しみと痛みにより、気を失う。
目を覚ました彼女が鏡を見ると、そこにいたのは、若く美しく、完璧なプロポーションを持つ、「より良い自分」(マーガレット・クアリー)だった……

ネタバレなし感想

めっちゃくちゃ面白かったです!

一言でいうと、若さと老いと美醜をめぐる話なんですが、若さと美に執着する女性と、女性を若さと美でしか判断しない男性の両方を、すごく誇張しコミカルかつ醜悪かつ悲惨な悪夢として描いているような映画でした。

ジャンルとしては、ボディーホラー?
体が変質していく恐怖を描く、みたいな感じでしょうか。

昔、『ザ・フライ』という、人間とハエが融合してしまい、体がハエになっていく、というような映画がありました。

こういう、人間の体が別のものに変質する物語をボディーホラーと呼ぶのかなと思いますが、『サブスタンス』は、“体がなにか恐ろしいものに変質すること”と、“若さを失い老いていくこと”を同等の恐怖として描いているのかなと思います。

それが真に恐ろしいことなのかどうかはともかく、少なくともエリザベスはそう思っている、ということが伝わってくるのです。

「より良い自分」とは何か

予告や公式サイトでわかる情報なので、「より良い自分」とは何かを簡単に説明すると、自分の分身です。

サブスタンスを使うと、背中がぱっくり割れて、そこから「より良い自分=自分の分身」が出てくる。
というか、生み出される。

その分身は、それまでの自分(母体)の記憶を持っています。
自分がサブスタンスを使用するに至った理由を、ちゃんと理解しているわけです。

サブスタンスを使用する際には、厳格なルールがあります。

①使用は一度だけ
②母体と分身は1週間ごとに入れ替わらなければならない

このルールは絶対で、何があろうと例外はなく、必ず守らなければなりません。

ルールが破られるとき、物語は加速する

しかし、ホラーにしろなんにしろ、物語に絶対的なルールが存在する場合、そのルールが破られることで、本格的に物語が動き出すと言えると思います。
だから当然、視聴者としては思うわけです。

このルール、そのうち破られるんだろうな。

自分の分身と、母体となった自分が、1週間ごとに入れ替わりながら、生きていく。
そのルールは、なぜ破られるに至ったのか?
ルールを破ると、どうなるのか?

こんなの絶対破綻するでしょ、破滅の未来しか見えん。
と思いながら、物語の行き着く先を見守る体験ができて、とても面白かったです。

美と若さをめぐる、恐怖と哀しみ

背中がぱっくり割れるとか、痛そうだったりグロい表現がそれなりに、いや結構あるんですが、この物語のエグさの本質はそこではありません。

エリザベスは美と若さに執着している、渇望していると言ってもいいですが、それは彼女の責任なんだろうか?
女性を美と若さでしか判断しない、評価しない男性たち、いえ男性だけでなく、人間そのものに問題があるのでは?

そういう基準でしか女性を見ない、男性たちの醜悪さ。
男性目線の評価基準に踊らされているように見えて、実はそれとは関係なく、美と若さを渇望し続ける女性の哀れさ。

見方を変えれば、これは男性にも当てはまります。
プロデューサーのハーヴェイが露骨に嫌なやつとして誇張されて描かれているのも、男性も老いると醜悪になっていくように見えてしまう、そこに男女の性差は関係ないという表現だと思います。

女性と社会の視線━━━美しさは誰のため?

多くの女性は、男性に見せるためでも評価されるためでもなく、ただ自分自身のために、美しくあろうとします。

だけどそこに、男性に評価されるため、という理由が加わると、過剰に性的になっていく。
女性の肉体や若さや美が、自分自身のものではなく、男性に消費されるものに変わっていく。
そして、女性も男性も、そこにしか価値を見い出せなくなっていく。

すごくリアルでエゴイスティックで恐ろしい、哀しい物語。
なんだけど、映像と構成と音楽がスタイリッシュで、見ていてすごくワクワクします。

そして何よりも、エリザベスの「より良い自分」であるスー(マーガレット・クアリー)が、本当にめちゃくちゃきれいで溌剌としていてプロポーション抜群で色っぽくて魅力的なので、この物語があのラストへ向かっていくことへの説得力がすごいです。

「より良い自分」とはつまり、今の自分の「上位互換」です。

もし、今の自分よりも、「より良い自分」に生まれ変われるとしたら?
誰もがそうなりたいと考えるでしょう。

でも、そんなうまい話はないんですよ。
だからこそ、映画の宣伝コピーにも使われていますが、物語は「阿鼻叫喚」するのです。

“ホラー”というジャンルの枠を超えた作品

この映画は、宣伝手法として「ホラー」という表現は使わないようにしているそうです。
ホラーと聞いただけで、見にいく選択肢から外してしまう人々が多いから、だそうです。

とても面白い映画だし、ホラーと聞いて想像するものとはだいぶ違う内容だから、ホラーと聞いたら忌避してしまう人たちにも見てほしい。
そういう意図があるそうです。

この映画のジャンルを一言で表すならボディーホラーかなと思うけど、SFでもあるし、サスペンスでもあるし、スリラーでもあるし、コメディでもあるし、悲惨で哀しい話でもある。

確かに、ホラーではない、とも言えるかも。

でも映画館の予告で見た「かわいいが暴走して、阿鼻叫喚」というコピーだけでは、多分見に行かなかっただろうなと思います。
ボディーホラーだと聞いて、だったら見に行こうと思ったので。

ホラーが好きなんですよね。
見たことのないもの、自分では想像し得ないものを見せてくれるので、ホラーやSFがとても好きです。

その期待通り、見たことのないものを、そして、ホラー好きなら今までに見たことのあるもの(オマージュ)を見せてくれたので、とても楽しませてもらえてよかったです。

オマージュだと感じたシーンについてなども語りたいので、ネタバレ感想記事も書きたいなと思っています。

 

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